2019年 09月 10日
第1話【たびのはじまり】 |
クラマと別れ、ワタル達は初めて子どもだけの旅を始めることになった。
「キャハハハ!!! 虎ちゃん追いかけっこするのだ!!」
「待てヒミコ! いきなりなんてずるいぞ!」
ヒミコの笑い声が響き、砂埃を上げて爆走するのを虎王が負けない速さで追いかける。
「二人とも〜、はぐれない程度に遊んでてよね〜〜!!」
その後ろ姿を見ながらワタルがのんきに声をかけていた。
「あいつらいっつもああなのか? ヒミコはいつもの調子ってのは今までの旅で知ってたが…」
うるさい奴が二人に増えたと海火子がため息をつく。ワタルはそれに笑って「虎王とヒミコだからねぇ」と、まるで当たり前のことのように流してしまった。
「……なんっか、あの虎王ってヤツは気にいらねぇな」
「なんか言った? 海火子」
「なんでもねぇよ」
自分でも何故イラつくのか、よくわからなかったので、海火子はそう答えた。
「ワタル! 何してんだ早く来い!」
「早くくるのだワタル〜〜!」
「も〜〜、虎王とヒミコが勝手に走り出したんだろ〜〜?」
豆粒のようになった緑の髪と金の髪が、手を振ったりぴょこんぴょこんと跳ねたりしながらワタルを呼んでいる。
「まったくもー。海火子、走ろ」
文句を言いながらも笑顔なワタルが海火子に呼びかけた。嬉しくてたまらないというふうに。
「なんであいつらに合わせなきゃいけねーんだよ。俺は歩いて行くぞ」
「これ以上離れるとほんとにはぐれちゃいそうだもん」
「知るか、あいつらが勝手に走り出したんだろーが」
「そうだけど……なんか拗ねてる?」
ぷい、とそっぽを向く海火子に、ようやく何かを察してワタルが問いかける。
「拗ねてねぇ!! 行くぞワタル!」
「あっ、もう待ってよー!」
一足飛びに走り出す海火子を追いかけて、ワタルも走った。
(なんで俺の名前は呼ばねぇんだよ)
走りながら海火子は思ったが、それを口に出すことはなかった。
「わーい、ヒコちゃん速い速い!」
「ヒミコ、あの赤いやつの名前はヒコって言うのか?」
(名前聞いたけど忘れてたな)
虎王はワタルと海火子が来るのを待ちながら、そう思っていた。
<つづく>
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by ukairosatoka
| 2019-09-10 12:39
| ワタル連載小説